本作によせて 大林宣彦
『理由』写真 風情の残る荒川区の簡易宿泊所「片倉ハウス」の長女・片倉信子が江東区にある交番にやって来たのは、1996年9月30日夕暮れ時のことだった。 応対する石川巡査に、彼女は自分の家に「荒川一家4人殺し」の容疑者・石田真澄が泊まっていることを告白。「でも人殺しなんかしていないんだよ、可哀想なおじさんなんだ・・・」、何かを庇うように一所懸命な信子の瞳から、一粒の涙が落ちた。“何かが起きている”ことを確信した石川巡査はすぐに片倉ハウスに向かうのだった――。

『理由』写真3ヶ月前の6月5日、東京23区に大雨洪水警報が発令された深夜未明、荒川区にある超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」で事件は発生した。2023号に住む葛西美枝子が仕事を終え帰宅、エレベーターに乗り込むと、床に20センチほどの血だまりが出来ていた。そして2025号の門扉にも血痕がついており、玄関の扉が10センチほど開いている。不審に思った葛西が遠巻きにそっと中を伺うと、玄関の奥に人影が! 同時刻、1225号佐藤家長女、中学3年の彩美は雷の音に眠れず、早く止まないかと窓の外にふと目をやった時、上の階から誰かが落ちて行くのを目撃。それを聞いた父・義男が大雨の中、管理人の佐野利明と共に出て行くと、植え込みの中に若い男が倒れていた。
通報によってようやく救急車が到着、さらには警察が調べたところ、2025号には小糸という一家が住んでいることが明らかになった。佐野によると以前から出入りの激しいこの部屋にはイヤな予感がしていたとのこと。
現場検証の結果、2025号からは3体の遺体が発見された。住人台帳に世帯主の記載がある小糸信治(41)、妻・静子(40)、及び身元不明の老女の遺体だった。さらに転落死した男もこの部屋の住人であることが判明した

『理由』写真ただこの時は、2025号に住む4人が全員、小糸家とは“すっかり入れ替わった別人”であることを、誰も知る由がなかった。小糸家の人々はどこへ消えたというのか?別人であるならば殺された4人とは誰なのか?
そして彼らを殺したのはいったい誰なのか?やがて数多くの人々の証言から、その「理由」が明かされて行く――。


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